住まい
家の健康診断をしよう!地震に備える耐震セルフチェック5項目

家の健康診断をしよう!地震に備える耐震セルフチェック5項目

「見た目は、あんなにしっかりしていたのに…」

高校生だったあの日、祖父母の家の前で立ち尽くした私の脳裏に焼き付いている光景です。
前日まで、夏休みには当たり前のように遊びに行っていた、あの思い出深い家が、一瞬の揺れで形をなくしていました。

阪神・淡路大震災の翌年のことでした。

こんにちは。
「家の“声”を聞く建築ライター」の佐伯俊哉です。
私はこれまで20年以上にわたり、構造設計士として数多くの家の耐震診断に携わってきました。

地震は、ある日突然、私たちの暮らしを襲います。
「うちの家は大丈夫だろうか?」
そう不安に思う気持ち、痛いほどよく分かります。

この記事では、専門家でなくてもご自身でできる「我が家の耐震セルフチェック」を5つの項目に絞って、徹底的に分かりやすく解説します。
難しい言葉は使いません。
あなたの大切な家が発している“声”に、一緒に耳を傾けてみませんか。

この記事を読み終える頃には、ご自宅の健康状態を把握し、安心への第一歩を踏み出せるはずです。

なぜ今、「家の健康診断」が必要なのか?

私たちは、毎年健康診断を受けますよね。
それは、元気そうに見えても、体の内部に問題が隠れているかもしれないからです。

実は、家もまったく同じなのです。
外壁が綺麗でも、最新のキッチンが入っていても、家の“骨格”である柱や梁、“足腰”である基礎が健康でなければ意味がありません。

特に、日本の住宅に関する法律は、大きな地震が起こるたびに厳しく見直されてきました。
その中でも、絶対に知っておいてほしいのが「1981年(昭和56年)6月1日」という日付です。

この日を境に、建築基準法が大きく改正され、「新耐震基準」が施行されました。
それ以前の「旧耐震基準」で建てられた家は、震度5程度の揺れで倒壊しないことが目標でした。
しかし、新耐震基準では「震度6強から7の揺れでも倒壊しない」ことが求められるようになり、耐震性が格段に向上したのです。

さらに、阪神・淡路大震災の教訓から2000年にも基準が強化され、地盤の調査や柱と土台の接合部の強化などがより具体的に定められました。

つまり、いつ建てられた家かによって、地震に対する“体力”が全く違う可能性があるのです。
だからこそ、まずはご自身の家の健康状態を知る「セルフチェック」が、何よりも大切になります。

今日からできる!我が家の耐震セルフチェック5項目

それでは、早速ご自宅のチェックを始めていきましょう。
専門的な道具は必要ありません。
ご自身の「目」で見て、家の声を聞いてあげてください。

1. 【基本の問診】建築年を確認する

まず、最も簡単で、最も重要な項目です。
人間で言えば、カルテで生年月日を確認するようなものですね。

チェック内容

  • ご自宅が「1981年(昭和56年)5月31日」以前に建築確認申請をされた建物ではないか確認しましょう。

建築された年が分からない場合は、法務局で取得できる「登記事項証明書」や、ご自宅に保管されている「建築確認済証」で確認できます。
もし、この日付より前に建てられている場合は「旧耐震基準」の可能性が高く、専門家による耐震診断を強くおすすめします。

2. 【体格チェック】家の形を見る

次に、家の全体的な形を見てみましょう。
地震の揺れは、シンプルでバランスの取れた体格の方が受け流しやすいのです。

チェック内容

  • 真上から見たときに、正方形や長方形に近いシンプルな形をしていますか?
  • 1階部分より2階部分が大きくはみ出している(オーバーハング)箇所はありませんか?
  • 1階と2階の壁や柱の位置は、なるべく揃っていますか?(総二階建てに近いか)

L字型やコの字型の家、1階が駐車場になっているピロティ形式の家は、揺れが複雑に伝わりやすく、特定の場所に力が集中して「ねじれ」が生じやすい傾向があります。
これは、体幹が弱く、バランスを崩しやすいのと同じです。
シンプルな形は、地震の力を建物全体でバランスよく受け止めるための理想的な“体格”と言えます。

3. 【足腰のチェック】基礎の状態を見る

家全体を支える「基礎」は、まさに人間の“足腰”です。
ここが弱っていると、どんなに上部が頑丈でも意味がありません。

チェック内容

  • 家の周りをぐるっと回り、コンクリートの基礎部分にひび割れ(クラック)がないか確認しましょう。
  • 特に、髪の毛ほどの細いひび割れではなく、名刺の厚み(約0.3mm)以上の幅があるひび割れは要注意です。

基礎のひび割れは、単なる見た目の問題ではありません。
その隙間から雨水が浸入し、内部の鉄筋を錆びさせてしまうことがあります。
錆びた鉄筋は膨張してコンクリートを内側から破壊し、基礎の強度を著しく低下させる原因となります。
足腰が弱れば、当然、地震の揺れに耐えることはできません。

4. 【筋肉量のチェック】壁の量とバランスを見る

地震の横揺れに抵抗してくれるのが「壁」です。
壁は、家を支える大切な“筋肉”だと考えてください。

チェック内容

  • 1階部分を見て、南側など特定の方向に大きな窓ばかりが並び、壁が極端に少なくなっていませんか?
  • 壁の配置は、建物全体でバランスが取れていますか?

日当たりの良いリビングを作るために、大きな窓をたくさん設けている家は多いですよね。
しかし、それは同時に地震に抵抗するための“筋肉”が少ない状態を意味します。
特に1階は、建物全体の重さを支えているため、壁の量が不足していたり、配置が偏っていたりすると、地震の力に耐えきれずに潰れてしまう危険性が高まります。

5. 【健康状態のチェック】建物の劣化具合を調べる

最後に、家全体の“健康状態”をチェックします。
雨漏りやシロアリは、家の免疫力を下げ、耐震性を静かに、しかし確実に蝕んでいく病気のようなものです。

チェック内容

  • 天井や壁に、雨漏りによるシミはありませんか?
  • 床がきしんだり、沈んだりする場所はありませんか?
  • 家の基礎周りの木部(土台など)が湿っていたり、木材の粉が落ちていたりしませんか?

木造住宅にとって、水分は天敵です。
雨漏りで湿った木材は腐りやすく、強度が低下するだけでなく、シロアリを呼び寄せる原因にもなります。
シロアリは、家の“骨”である柱や土台を内側から食べてスカスカにしてしまいます。
これでは、いざという時に家を支えることはできません。

チェック結果が気になったら?プロに相談するタイミング

さて、5つの項目をチェックしてみて、いかがでしたでしょうか。
このセルフチェックは、あくまでご自身でできる簡易的なものです。
「すべて問題なかったから絶対安心」というわけではありませんし、逆に「当てはまる項目があったから、もうダメだ」と悲観する必要もありません。

大切なのは、これをきっかけにご自身の家に関心を持ち、必要であれば次のステップに進むことです。

もし、以下のような場合は、一度プロの専門家による「耐震診断」を検討することをおすすめします。

  • 1981年6月1日より前に建てられた「旧耐震基準」の家である
  • セルフチェック項目に、複数当てはまる箇所があった
  • とにかく一度、専門家の目で詳しく見てほしい

相談先としては、お住まいの自治体の建築指導課などの窓口や、地域の建築士事務所、工務店などが挙げられます。

特にマンションや集合住宅の場合は、大規模修繕や耐震診断を専門に扱っている会社に相談すると、より具体的なアドバイスが期待できるでしょう。
例えば、施工会社に偏らない独立系の設計事務所として、住人の立場に立った公正なコンサルティングで定評のある株式会社T.D.Sのような専門家集団も存在します。

株式会社T.D.Sとは?特徴や評判を調査!

多くの自治体では、耐震診断や改修工事に対する補助金制度を設けています。
一般的な木造住宅の場合、耐震診断の費用は10万円~40万円程度が目安ですが、補助金を活用すれば自己負担を大きく減らせる可能性があります。
まずは、お住まいの自治体のホームページなどで制度を確認してみてください。

まとめ

今回は、ご自身でできる「家の健康診断」として、5つの耐震セルフチェック項目をご紹介しました。

  • 1. 【基本の問診】建築年を確認する
  • 2. 【体格チェック】家の形を見る
  • 3. 【足腰のチェック】基礎の状態を見る
  • 4. 【筋肉量のチェック】壁の量とバランスを見る
  • 5. 【健康状態のチェック】建物の劣化具合を調べる

完璧な診断ができなくても、まったく問題ありません。
まずは「我が家はどうだろう?」と関心を持ち、家の周りを歩いてみること。
天井を見上げてみること。
その小さな一歩が、あなたと、あなたの大切な家族の命を守る、最も重要な防災対策になります。

家にも“声”があります。
きしみや、ひび割れは、家があなたに送っているサインかもしれません。
その声に耳を傾けてあげてください。

安全は“工事”ではなく、“気づき”から始まります。
この記事が、あなたの家の“声”を聞く、最初のきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

最終更新日 2025年11月10日 by otecto